新入社員が入ってきて仕事を教えているとき、ある先輩はこう教えたが、ある先輩は違うやり方を教える。
そのことによって、その新入社員はどっちが正しいのか悩んでいる。

板前をはじめ職人の世界が多い中で、技術やノウハウが口伝で伝わり、会社としてのノウハウが残っていなく、人がやめたり変わったりすると仕事の 仕方がわからなくなってしまう。

ロビーにある自動販売機が、良く品切れを起している。
多分フロントの管轄だとみんなは思っていたが、フロントは自分たちの仕事ではなく業者に任せっきりで管理がされていなかった。

お風呂の温度管理をしていたが、測る場所・測り方が人によってまちまちなので、データの信用性が無かった。また、そもそも測る温度計の数字も 消えかかっていて正しい温度の測定すらできていなかった。しかもガラス製の温度計を使用していた ため、万が一、事故につながる可能性があった。

客室のパンフレット類が古いままで営業時間などが変更なっているのにそのままになっていた。

フロントに集まる問い合わせやクレームはその場で適切に対処されているが、そもそもその原因を潰すまでいっていなく、相も変わらず同じような問い合わせやクレームで忙しくしていた。

出勤時間の違う人たちの間で言った言わない、聞いた聞かないなどの言い争いがあった。

外注業者が実施したエレベーターや設備の点検記録が、担当者でなければ何処にしまってあるのか解らない状況であった。

パントリー冷蔵庫の片隅に、期限切れのドレッシングが残っていた。

客室冷蔵庫内のおつまみの賞味期限が切れたままになっていた。


 
3.1.1 対外的・社内的のマルチメリット
 一つのプロセスは、ほとんどの場合に他のプロセスと関連性をもっている。同様に、一つのメリットは、他のメリットとも深く関係しており、さらに、他の要素を加味することで、新しいメリットを生むと考えることができる。例えば、売上が増加すれば余力が教育の充実や新たな設備投資へ発展するし、教育が深まってサービス意識が高まれば、顧客満足度の高まりとなって営業面でプラスに作用し、売上の増加にも寄与する。いわゆる好循環のスパイラルが顕在化してくる。要は、単なる「メリット」の言葉で断片的に捉えるのではなく、相乗的に考える必要があるのだが、ここでは便宜的に「売上」「企業体質」「コスト」の3点に集約して整理してみる。模式図化すると下図のようにイメージできる。
◆対外的効果 ISOの認証取得は、時代の潮流といえるが、旅館・ホテル業界においては緒についた段階といえる。したがって、認証取得が一般利用客や旅行業者へ与える影響力は、現状では先駆的なものとして極めて大きい。いわゆる「他社との差別化」政策のとして、イメージ・知名度アップの効果が期待できる。(すでに大手の一部旅行業者では旅館商品のパンフレットに「ISO認証取得」を掲示している)これは、とりもなおさず差別化によるビジネスチャンスの拡大である。また、顧客のニーズを先取りした対応は、CS(顧客満足)の向上につながる。結果として、メリットの一つである「売上アップ」が図られる。
 また、継続的な改善を前提としたシステムであることから、常にニーズとマッチした施策を講じることができる。従前の旅館・ホテルは、ややもすると押し付けともいえるエージェントの要請に振り回されてきたが、これは集客だけでなくニーズの把握すらエージェント依存であったことと無縁ではない。しかし、この分野で独自の対応が可能であれば、「エージェント+独自販売チャンネル」の構図も実現する。これも、主体的な営業展開による「売上アップ策」として期待でき、今後は大きな要素といえる。
◆社内的効果 これは、当面の課題である「コスト削減」と「企業体質の強化」の両面から捉えることができる。
 第一点の「コスト削減」では、ISOによって会社全体の「業務改善」が図られることに起因する。とりわけ、従前の業務体系を見直し「標準化」を推進することで、随所に潜んでいた「ムリ・ムダ・ムラ」が洗い出され、これらを改善することで生産性が飛躍的に向上する。例えば、旅館・ホテルで発生しがちなアイドルタイム一つにしても、人件費の面からみればロスでしかない。そうしたもの一つひとつ改善することで、コストの削減が図られる。いわば、必要を迫られている「構造改革」が効果的に推進できる。
 一方、「企業体質の強化」では、仕事のやり方を変更するのに伴って、社員の意識改革が進む。例えば、責任と権限の明確化なども意識改革にかかわってくる。もちろん、経営者の意識もより強固なものとなる。さらに、教育システムの充実などが相乗的に作用して、企業体質の強化へとつながる。また、責任と権限の明確化に連動させた人事考課システムなどを加味させることで、労働意欲の向上とコスト政策としての合理的な賃金体系を両立させることも可能となる。
 結果として、経営資源の適切な運用による経営基盤の強化が図られる。
3.1.2 メリットを生む要素
 前記のような導入メリットは、ISOのシステムそのものが「経営ツール」としての内容を包含しているからである。これは、前述した「品質管理のシステム規格として導入するケースが増えている」(1.4.1)といった意味合いからもみてとれる。そこで、経営変革ツールとしての側面からポイントを整理してみよう。
 大別すれば前項と同様に対外的なものと社内的なものとなる。
◆対外的意味合いの経営ツール 第一点は、言葉としての適正さは別として「販促ツール」としての利用があげられる。第一に広告宣伝で「ISO認証取得」と表記できることは、差別化や信頼性のアップに貢献する。意味合いは違うが、信頼を下ささえするものとして、かつては加盟する団体や協定する旅行エージェントの看板を掲げ、安心感では消防法に基づく「マル適マーク」を表示していた。今日、消費者の関心度合いの変化などもあって、それらを掲げる意味は従前ほどなくなっている。むしろ、今後はISOがそれに代わる可能性がある。ただし、ISOは従前の「看板」に類するものとは位置付けがまったく異なる。前述したように「PDCAサイクル」に象徴されるシステムとしての機能が確実に稼働していなければ、「認証取得」を維持できない。販促ツールとして「看板料」的な発想で取得するだけでは実効を得ることが難しい。
 販促ツールとしての視点は、こうした表示効果だけでなく、マニュアル化・教育に反映させることで、販売ノウハウを標準化し、営業スタッフ全員で共有することが可能である。これは販促のカナメである営業力の強化ともいえる。
 二点目は、「CSツール」としての位置付けが可能である。旅館・ホテルでのCS向上は、お客様のアンケートや意見・クレームなどの諸情報を的確に把握するとともに、それらをどのような形で具体的に生かすかがポイントとなる。「アンケートを実施している」だけでは、「なるほど、そんな声もあるのか」で、その場限りで終ってしまうこともある。ISOでは、これらが「是正・予防措置」として品質システムにフィードバックされる。したがって、お客様への対応を「対外的」と捉えるならば、CS支援ツールとしての役割も大きい。
◆社内的意味合いの経営ツール ここでは便宜的に「経営理念と企業体質」を「業務体制」にかかわる部分に大別してみる。前者では、@経営方針徹底ツール、A企業体質改善ツール、後者ではB業務標準化ツール、及び標準化に伴う仕事の状態をチェックするC内部監査ツールなどの視点で捉えるとともに、体質改善や作業の標準化とも関連したD人事制度ツールの捉え方もできよう。
@方針徹底のツール とりわけ<核>といえるのが社長の決めた「経営方針」を末端にまで浸透させる「経営方針徹底ツール」としての捉え方である。旅館・ホテルのキャッチフレーズは、抽象的な「くつろぎの宿」「人情の宿」といったものから、売り物をズバリ表現した「割烹の宿」「露天風呂の宿」といったものまでさまざまだが、その根底には経営者が現在と将来を見据えた「こんな宿にしたい」とする方針がある。そして、施設展開だけでなく接遇サービスにおいても、それにふさわしい姿をイメージし、方針を打ち出しているはずである。ところが、現実はそれが十分でなく、時にはクレームに発展することさえある。理由は、多くの場合、経営者の定めた方針が徹底されていないことに起因する。なぜか? 口頭や文書で示したところで、徹底されるシステムがそこになければ、反復による深度化は図られないからである。その点でISOは、経営者の定めた「方針の徹底」を第一にシステムづくりを求めている。逆に考えれば、経営者が方針を定めなければシステムは構築できないし、従業員が方針の徹底に努めなければ運用が成り立たないともいえる。その意味で「経営方針徹底ツール」いえる。
A企業体質改善ツール 一般に企業の体質は、業務を推進する上での方法(仕事のやり方)と携わる従事者の取り組み方(意識)が反映されている。例えば、お客様のリクエストに対して迅速で正確な対応のできる旅館・ホテルには、それを可能とさせる「やり方」と従業員の「意識」が根底にある。といって、合理的と思える仕組みや理想と思える従業員モラルを、それぞれ外部から移入しようとしても、多くの場合は馴染まず不首尾に終る。これは、やり方を変えれば「意識」がついていかないし、意識を変えても「やり方」が旧態前では混乱を招くだけである。そこで、両者を整合させながらシステムを構築し、さらに状況にあわせて改善することで、結果として企業の体質改善につながる。そうしたシステムづくりを求めているのがISOであり、「企業体質改善ツール」といった捉え方ができる。
B業務標準化ツール この点については、マニュアルや手順書をはじめ、「バラツキのない仕事」をするための品質管理システムがISOであることを考えれば、当然のことといえる。
C内部監査ツール 言葉としての「監査」は、日常業務とは多少馴染み難い一面もあるようだが、要は定期的にチェックするとともに、仕組に問題点があれば改善をしていこうとするものである。頭では理解できることだが、実際に内部でチェックを行って見直すことは難しく、これを定期的に実施するのは至難と思われてきた。例えば、簡単なチェックリストでさえ実施開始から時間が経つにつれて履行されなくなり、やがて廃止の憂き目を見た経験は少なくないはずである。これは、やり方とやる意識の問題である。両者がシステムとして確立されていなければ、従前の轍を踏むことになるが、ISOはこれについても明確に要求している。第三者によるチェックもあり、実行していなければISOの認証は継続できないことになる。
D人事制度ツール ISOでは教育・訓練を要求するとともに、職能制度の整備を求めている。コスト削減の項(3.1.1)で示したように、旅館・ホテルでは人件費の占めるウエートが極めて高いことから、賃金に見合った働きを従業員にしてもらわなければ採算が合わない。能力を発揮させるための教育・訓練の必要性は広く認識されているが、同時に職能制度が整備されていなければ、言葉は悪いが「能力はあっても横着をする」といったケースも少なくないはずである。逆に、これらが整備されていれば、仕事に対する従業員の意識も高まるはずで、人事制度ツールとしてのとらえ方ができる。
3.2.1 情報の流れをトータルで捉える
 前段(3.1.1〜2)では、総論的なメリットとツールとしての視点から整理してみたが、改めて旅館・ホテルの現状を考えてみよう。業務の流れのなかで、作業と情報がどのように関わっているかである(下の模式図参照)。この流れに問題があると、最終的にはクレームの発生につながり、あるいは経営そのものに影響を及ぼすことになる。
 一般的にいえるのは、模式図の右端にある「周知」や「履行確認」が徹底されていないためだが、肝心なことは、これらが一連の流れによって成り立つという認識である。つまり、仕組(システム)として明確化されていなければ、同じ問題を繰り返すことになる。さらに、ISOの視点からいえば、改善策としてフィードバックされることの大切さである。この仕組が社内に根付くこと自体が、極めて大きなメリットである。
 例えば、クレームについては、以下のことがいえる。
「クレームが発生すると、その時点で何らかの対応策がとられ、事態の収拾が図られる。ここでの対処がクレーム対応の基本施策にフィードバックされることで、失敗を教訓として生かすことも可能になる。セオリーとしては誰にでも理解できることであるが、現実はセオリーどおりにコトが運ばない。どんなに完全と思える仕組みをつくっても、あるいは運用システムを構築しても、それによって「絶対」や「完璧」を期すことは難しい。いうまでもなく、それを運用し、事態に対処するのは人間だからである。完全な仕組みを作っても確実に運用されなければ意味がないとなると、仕組みづくりよりも社員の資質向上の手だてを講じるのが先決ではないか、といった堂々巡りの論に陥ってしまうことがある。
 だが、絶対や完璧は得がたいとしても、「いつ・誰が・何のために・何をする」といった事柄が仕組みの中で明確化されていれば、仕組みが目指す「目的」(クレーム・ゼロ)へ近づくことはできる」(松本正憲著『赤字が消える? 旅館が変わる!・下巻』観光経済新聞社刊=から抜粋)
 ここで指摘されていることは、システムとしての認識である。
3.2.2 品質コストの認識
 話は若干前後するが、クレームが旅館・ホテルに及ぼす影響を考えてみよう。ISOでは、これまで述べてきたように「品質管理」が最大のテーマである。その目的が達成されれば、クレームの発生は限りなくミニマム化していく。これに対して現状は、発生したクレームの対処に汲々としているといえよう。
 ISOの特徴として「顧客の側からの発想」を示したが、視点を換えれば「はじめに顧客ありき」である。施設側の発想で、どんなに立派な施設をつくっても、あるいは高質なサービスを打ち出しても、お客様にそっぽを向かれてしまえばおしまいである。一過性のコマーシャルで一時は集客できても、決して長続きはしないし、持続させようとすれば膨大な経費を投じなければならない。また、事故やクレームが一度発生してしまえば、それすらも水泡に帰してしまう。
 回りくどい表現になってしまったが、要は、お客様の要求事項に応え、期待を超える満足感を提供することが、最大の集客策だということである。その対極にクレームがある。
 つまり、広告宣伝などへの経費については、一般に「当然」として認識されているが、クレームの処理や日々の品質管理にかかわる経費には、あまり意識が注がれていないようである。ところが、「はじめに顧客ありき」の発想にたつと、品質管理への取組み姿勢こそが「はじめにありき」なのである。
 品質に関わるコストは、「予防」「確認(チェック)」「内部不良」「外部不良」の4つに区分できる。このうち前の二者については言葉どおりであるが、後の二者については若干の説明が必要だろう。「内部不良」とは、クレームなどの発生によって生じる二度手間にかかるコストである。例えば、料理をつくり直した場合の原価や手間(人件費)、接遇での手間などである。「外部不良」は、クレームの発生によって失われた信頼性を回復させるためのコストである。例えは悪いが、食中毒事故などが発生してしまった場合、失地回復のために多大なコストが必要なことは、改めて述べるまでもないだろう。おまけに休業などがあれば、その間の売上消失も甚大なものになる。
 前述の取組み姿勢に照らして現状をみると、「予防」「確認(チェック)」の意識が薄いために、「内部不良」「外部不良」へのコストが必要となっているという点が、ここでは問題視される。結論からいえば、ISOによるシステムが構築されると、「予防」「確認(チェック)」のコストウエートは高まるが、「内部不良」「外部不良」のコストが軽減されるために、全体としてのコスト削減につながる。これも大きなメリットである。
3.2.3 「責任と権限」の明確化
 旅館・ホテルにおける人件費比率の高さは、改めて説明するまでもない。ここで問題視すべきことは、人件費の高さではなく、前述したように賃金に見合った働きをしているか否かである。この問題は「永遠の課題」の一つとして、ややもすると諦観にも似た捉え方がされてきた。しかし、明確な尺度さえあれば、決して解決のできない課題ではない。人事制度ツールの項(3.1.2)で述べたように、教育・訓練と職能制度が整備されれば、一定の「ものさし」は明確になる。
 ISOによって明確化される社内機構のポイントは、アトランダムに整理すると以下のようなものがあげられる。
@ 業務の遂行に当たって一人ひとりの「責任」と「権限」が明確になる。
A 教育・訓練によって一人ひとりの能力や育成すべき方向が明確になる。
B 業務遂行にかかわる記録が残る。
C 経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)のムダを排除した運営が可能となる。
 これらによって「ものさし」が明確になり、「人事考課」の制度化が生きてくるわけである。
 ひるがえって旅館・ホテルの現状をみると、例えば「責任と権限」について社内に一定のルールがあったとしても、前出のクレームをはじめ経営者が全責任を負う形になっている。組織のしっかりした大企業では、「責任と権限」が明確化しており、経営者が真っ先に責任をとる形は希なのと大きく異なる。いわば、旅館・ホテルの経営者は、退任するまで無限の責任を負っているともいえる。これでは経営者の荷が重過ぎるだけでなく、経営者が本来なすべき仕事に支障さえきたしかねない。
 そこで、合理的で誰もが納得のできる「責任と権限」のシステムづくりが求められる。そうしたシステムの下では、一人ひとりの果たすべき役割が明確化されている。換言すれば、一人ひとりが自覚をすることで、システムが機能するともいえる。とはいえ、自覚を待つだけでは心もとない。また、業務を遂行する従業員の資質としては、つぎのような三タイプがあるのも事実である。与えられた職責に対して、第一は「確実に果たすタイプ」、第二は「果たす能力があってもやらないタイプ」、第三は「やるけれでも結果が不十分なタイプ」である。
 この三タイプの中で、第一のタイプはいうまでもなく問題はないし、第三のタイプは教育・訓練の問題であって、会社側に責任の一端があるともいえる。問題となるのは、第二のタイプである。けだし、現状で最も多いと考えられるのが第二のタイプである。人件費に見合った働きとして問題視されるのが、このタイプにほかならない。
 ところが、ISOによって人事制度が整備されると、第二のタイプに対して「あなたは果たすべき役割を全うしていない」と、責任と権限の面から客観的で具体的な指摘をすることができる。
 こうした企業内の環境整備がなされると、賃金の「等級制度」をはじめとした人事考課のシステムが機能し、適正な労働分配で指揮を高めることにつながる。また、極めてマイナーな姿勢ではあるが、合理化をすすめる上で「リストラのツール」とみることもできよう。